平穏なる日々

『オーダーメイド殺人事件』辻村深月を読んだ。大分前に。

主人公はかなり中二病の女子。かなり厨二病の男子に「私を殺して少年Aになって。ただし私の好きな効果的な方法で」と頼むというかなり中二設定の話。殺人事件とついていながらもけしてミステリではない。

こうしてあからさまに書かれてみると、なるほど、辻村の筆致は中二病のそれだったのだなとわかる。あまり辻村の本を多くは読んでいないが、結構心臓にくる痛い感じの文章は何だろうと思っていたら中二か。
生物学(心理学?)っぽく言えば、何者にもなれる全能感とまだ何者でもない不全感の狭間で自己認識能力に支障を来す一時期の精神状態ですな。
女子同士のつきあいで、友人間の位置関係とか立場とかささいなことによる無視とかそういったやりとりに、常に神経を張って緊張して生きていたその時期、ああ、早く大人になってこんな狭い世界を抜け出し何も気にせずもっと自由に生きたいと思っていたけれど、今になって思うのは、そんな場所はどこにもないのだということ。
人が人であって、社会というところが他人の寄せ集めである限り、そこには常に不安や緊張や怖れが存在し、誰もが心安らかには生きていないのだということが、なんとなくわかってきた気がする。

多分誰もが何かを怖れて生きている、気がする。
今私の周りにいる英語コースの学生達は、それぞれ自己主張が強く自信満々に見えたりもするけど、多分一様に英語コースにパスできるか、授業についていけるかを気にしていると思うし、
リア充の人々も、私には想像もできないがきっと何か不安を持っているのではないだろうか。
みんながみんな、何かをおそれ緊張の日々を送っている、と思うと、ああ、自分だけではないのだな、とほんの少し心が軽くなったような気がするのだ。