どうしたことか

乱鴉の島

乱鴉の島

を読んだ。

 いつも有栖川先生の本は買ってすぐ読まずにしばらく楽しみに寝かせておくのだが、今回はよんどころなき事情により読んでしまった。
 ひさしぶりに有栖川先生の本を読むと、文章がめちゃめちゃうまいな〜と感心する。感動の域に達する。最近読んでるのが昔の翻訳のクイーン短編集だったりするからなおさらだ。いや、まずくはないメジャー作家のも読んでいたのだけれど、段違いに感じる。
 さて、私は薬学系の勉強をしていて、クローンについてとかつまんない知識をそこそこ持っている。そのため、これまでクローンを扱ったミステリを面白いと感じたことがない。「実はクローンでした」というオチのものは、読みながらうんざりすることもある。名前はあげないけど、あれとか、あれとか。
 前にもどこかで書いた気がするが(多分、『変身』について書いたときだ)、先端的科学技術をミステリが扱おうとするとき、その新規性だけをネタにトリックとして使うのは間違っていると思う。技術は進み、そんな新規性はすぐに消え去ってしまうからだ。科学技術をネタに扱うならば、それが旧知の知識になっても意味のあるトリックに生かさなければならない。そうでないとミステリの意味がない。「この謎はこういう新しい技術によって解決されるのでした〜」「へえ〜知らなかった〜」じゃ、子供相手の科学教養娯楽だろう。
 これは違う。クローン生殖という技術をよく理解した上での、人間の行動を、感情を、書いている。たとえ将来クローン技術が実現可能な段階になり、倫理的問題もクリアしてクローン人間が誕生することになっても、この物語は朽ちない。
 これはミステリで、人間を書いているからだ。

 あらすじなら誰かが書いているだろうしどっかのレビューも出るでしょう。ご参照ください。
 とにかくこれは読んでいいよ。間違いない。でもこれは語りたいぞ。
 次のオフはネタばれで語りましょうぞ〜