くう

君の名残を

君の名残を

 読むのにものすごい時間がかかった。選んで読んだのは自己責任だから時間を返せとは言いたくないが。どうしてこれを読もうと思ったのかその時この本を手に取った自分を部屋の隅に追いつめて四半時ほど問いつめたい。なぜなんだ。

 浅倉版平家物語
 現代に生きる友恵と武蔵と志郎の三人が、タイムスリップして八百年前の世界に…という話。友恵は駒王丸と出会って「巴」として生き、武蔵は了然とそして牛若丸と出会い「弁慶」になり、志郎は政子に見つけられ「北条四郎義時」の道を歩む。ミステリでもなんでもないのでネタばれもないのだが、一応。結末とか書くので。



 私家版平家物語を作るなら、それなりの翼が必要ではないのか? 特に未来から人間を導入するなんて「飛躍」を持ち出したからには。
 これはもう、歴史的に見て特異的な義仲と義経に対する説明を彼(大文字の作者)が考え、それをただ人に言いたかったがためだけに書かれたとしか思えない。そういう単なる思いつきは、飲み屋で友達にしゃべっていてほしい。
 物語にするには、あまりにも人間が考えられていなさすぎなんだよ。
 決められた運命に唯々諾々と従うのが人間か? 読んでるこっちにとっては、歴史として知っている事柄をまんま(作者のオリジナルはあれど)早送りなしでじりじりとなぞられていくのは、まるで自分が友恵や武蔵になったような感じで非常にいらだたしい(あ、「物語に引き込まれて、まるで自分が本の中に入ってしまったみたい♪」みたいな褒め言葉じゃないから)。何が面白いというのだ? まるで馬鹿になったみたいだった。何も考えず、ただじりじりじりじり辛抱強くなぞっていくのは。
 結末が判っていて、しかもそれを望んでいないなら、どうして反抗しようとしないのか。反抗しない根拠が「今を今として生きる」みたいな精神論だけなんて納得いかない。たとえそうすることが正しいのだとしても、いきなり悟ってしまえる彼らはなんなのだ? 神か? せめて一回くらいは反抗してみないのか?
 悟った人間の話なんか読んで面白いのか? それは物語ではなくて経だろ。

 でも確かに友恵はちょっと頭の働きに信をおきかねるところがあることは明記されている。最後に時と友恵が約束をするのだが、友恵はきちんと騙されているのだ。だって「魂は永遠に義仲と一緒に転生する」って…もとから八百年後にまた戻ってきてループする予定じゃないの? そんなんで納得してていいの? それに八百年前の時点では同じ魂が二つずつ同時に存在していることにならないかい? しかも一組は出会っているし。
 そういうSF的整合性がものすごくずるずるなのが非常にいらいらする。まあ、はじめっからそうだったけどさ。

 SFに見せかけておとぎ話、てのが定石なのか? 細部を書き込めばいいってもんじゃねえんだぜ。