天才

ううむ。
友達と映画を見に行って、予告編を見ていたら「全世界1200万部の大ベストセラーが遂に映画化」というコピーが出てきた。
本読みの性として、そのタイトルが何であるかに思い至るために暫し奮闘してしまった。三秒かかった。作者の名前を思い出すのにさらに十秒かかった。『香水』だ。パトリック・ジュースキントの。かなり昔の本ではないか。なぜ今頃映画化なのだろう。

私はあれがちっとも面白いと思わなかった。以下、ネタばれっぽいので注意されたし。



あのラストでは、結局主人公は「天才」ではなかったことを証明したに過ぎないではないか、と私は思う。あれだけ天才天才と言われていた主人公が、結局は凡の人だったと示すだけの。
あれは、(西洋人の思考にすれば)「神が創りたもうた」匂いこそが至高と認め、屈服しているに過ぎないラストだ。真の天才ならば、神の創った匂いを超える香りを作り出すはずだ、あるいは、べきだ。ただの女の匂いなんかものともしないような、人工の香りを。それが天才の由縁ではないのか。
あれじゃあ、美学も何もないただのくそサイコ野郎だ。
例を変えて考えてみると明らかだ。例えば、犯罪の天才と言われる男が究極的に辿り着いたのが「確率の殺人」だとしたら? 天才画家が最後に残したのが一枚のただの何の技術もないピンホール写真だとしたら?
あるものをそのままうつすことは、誰が何と言っても芸術ではないだろうし、それをするものを天才だとは言わないだろう。

天才とは、神を超えようとする者の呼び名だ。